Hello / いとこの来る日曜日 - フリッパーズ・ギター
そのとき、高校生だったわたしは通学のため電車に揺られていた。通学時間は、ひまだ。音楽を聴くにはもってこいである
たまたま家にあったフリッパーズ・ギターの1stアルバム「THREE CHEERS FOR OUR SIDE ~海へ行くつもりじゃなかった~」(未だにちゃんと名前を覚えていないのでフリッパーズの1stと呼んでいる)。
良い歌を歌うらしい小沢健二というミュージシャンが、デビュー時に在籍していたらしいこのバンドの音源を、今日はウォークマンに仕込んできたのだ。ひまだしためしに聴いてみることにしよう。
そうしてヒシジマ少年は再生ボタンを押した。これが、のちのヒシジマに大きく影響を与えるような出会いとなるとは、数十秒前のヒシジマはまだ、知らないのであった
おおん...なんかハワイアンでおしゃれな感じだねえ
オッッ!?
急にギアが上がったね!?こんな生っぽい音でギャコギャコやるんだね!?はじめての感覚だな
子気味よい声だね、これはおそらく小沢健二ではないな、小沢健二は歌わないのか?
そうこうしているうちに、曲はサビへと突入する
ブッ飛んだ
これはヒシジマを知る人であればうんざりするほどきいたワードかもしれないが、車両の端から端までブッ飛んだ。おれのHEARTが
こんなサビのこんなメロディ、こんなカラフルなハーモニーが存在しただなんて、ぼくは知らなかった。その頃パンクロックやロックンロールへの憧れ少年だったヒシジマの心を、小山田圭吾と小沢健二によるハーモニーがさらっと盗んでいったのである
その日、昼頃までヒシジマは夢見心地な気分でいた
当時ヒシジマはロックンロールやパンクロックばかり聴いていた。しかし、もともとはポップなものが好きである。
心の中のその部分に至るまでの、ロックンロールへの憧れ、意地、固定観念、衝動などさまざまなしがらみをするりと通り抜け、フリッパーズ・ギターはぼくの心と結びついたのである
売れてる音楽なんてすべて嫌いだし、くだらないものだと意地を張っていた当時のヒシジマの心が少しずつ変わり始めたのはその頃からであるような気がする。
ポップなものを素直に受け入れる心のキャパシティをフリッパーズが用意してくれたおかげで、その後アイドルマスターシンデレラガールズにハマることができたり、AKB48なんて当時あんなに毛嫌いしていたのに、今ではEverydayカチューシャが大名曲であるとなんの恥ずかしげもなく主張することができるようになったと言っても過言ではないような気がしている。
ロックンロールへの憧れは今も尽きない。
しかし、この曲、ひいてはフリッパーズ・ギターがヒシジマの感性の幅を広げてくれたお陰で、当時は気づかなかった世界まで今、見渡すことができているように思う。この曲がなければ、今の自分はいなかったのではないかとさえ、思えてしまうのだ。